三陸書房
今月号リレー・エッセイ2
 
(7) 内包と外延  その21

ポストハーベストは心配? 
佐川 峻 
「ポストハーベスト」という言葉を聞いたことがあるのではないでしょうか。ポストは「後」、ハーベストは「収穫」で、文字通り、農産物を収穫した後に用いる農薬全般を指します。
収穫した農産物が貯蔵中や輸送中に腐敗したり、病害虫がつかないように用いられます。
このポストハーベストには多くの種類の薬品があるのですが、国産の農産物にはポストハーベストは一切、用いられておりません。従って、ポストハーベストの健康への影響という観点からは、海外から輸入されている穀物や果物のような農産物が対象となります。
例えば、米国をはじめとして、穀物やグレープフルーツ、オレンジ、レモン、バナナなどの果物が輸入されていますが、貯蔵と輸送に時間がかかるため、一般には、穀物には殺虫剤、果物には防カビ剤などが用いられています。
防カビ剤は殺菌剤が主なものです。スーパーなどで「この商品には〇〇、○○が防カビ剤として用いられています」などの表示を見かけると思います。
殺虫剤としては、臭化メチルやリン化マグネシウム、防カビ剤にはジフェニルやイマザリル、チアベンダゾール(TBZ)などが代表的なものです。
輸入果物の腐敗防止を目的としたポストハーベストは、日本では食品添加物として扱われています。同じ農薬でも残留農薬として扱うか、食べることを前提とした食品添加物として扱うかで基準が異なりますが、日本では後者なのです。
柑橘類のポストハーベストは、勿論、収穫した果物にポストハーベストを皮の上から散布したり、容器の紙に浸潤されたりします。しかし、果物全体を食品としてその添加物を検査するのですから、皮と中身をぐちゃぐちゃに混ぜ、それを食品と見立てて検査するのです。
一般に皮は食べませんが、マーマレードとして用いたり、皮ごと食べることもあるという想定です。通常、グレープフルーツは、皮ごとは食べませんが中身プラス皮でポストハーベストの添加量を計り、規制するのです。
食品添加物の決め方は前回、紹介したように動物実験で安全と確認された摂取量の100分の1です。輸入柑橘類の場合にこれを当てはめると、皮ごと毎日摂取して、安全とされる100分の1になります。
皮ごと食べても安全であるように規制されているので、輸入時にポストハーベストを正確に測定していれば一応は安心です。
しかし、無いのに越したことはなく、国産品では使用されていないのですから、なぜ「使用禁止」とできないか、不思議な気もします。
これには厳しい国際環境が関係しています。その有名な例が1970年代に生じた「日米レモン戦争」です。
1970年頃、米国から輸入されるグレープフルーツやレモンには、ポストハーベストとしてオルトフェニルフェノール(OPP)やチアベンダゾール(TBZ)などの防カビ剤が使用されていました。 
1974年に、当時の厚生省はこれらのポストハーベストは日本では使用が許可されておらず、それを使用した柑橘を輸入しないように警告を出しました。特にグレープフルーツからは高濃度のOPPが検出され、廃棄処分までしました。
しかし、これでは米国産柑橘類が販売できなくなるというので、米国政府や輸入業者から認可するようにとの圧力がかかりました。これがきっかけで、「日米レモン戦争」が勃発したのです。
結局、1977年にOPPを農薬ではなく、食品添加物として認可し、「日米レモン戦争」は終結しました。
1970年代は日米貿易戦争が勃発した時期でした。1972年には日本からの繊維製品の米国への輸出をめぐって、日米繊維交渉が行われ、日本からの自主規制という結果になりました。また、1977年には鉄鋼、カラーテレビなども同様に規制されることになりました。
日本から米国への輸出は控えめに、米国からの輸入は増やすようにという、銃弾は飛ばない大きな戦争が底流にあったのでした。
この隠れた戦争は形や製品を変化させながら、今でも続いていると見ることもできます。トランプ大統領にとっては、あからさまな戦争なのかもしれません。ポストハーベスト問題などはその大きな流れのほんの一つにしかすぎないように思えます。



◇   ◆   ◇



今月はワイルドな植物です。まずツタとカラスです(写真A) 。
四角い建物にツタがからまっていました。赤い実はカラスウリでしょうか。カラスが好んで食べるのでこの名前になったという説もありますが、なるほど屋根にはカラスがとまっています。


ツタとカラス

写真A ツタとカラス
(東京都杉並区下井草3丁目:2018年12月18日)


私が子供のころは、すなわち60年以上も前にはこのようなさびしい光景はよく見たものでしたが、今は開発と宅地化が進み、めったに見られなくなりました。
廃屋を探検した昔を思い出し、なつかしさとともにかえって意外な新鮮さを感じます。
次はキクとネギです(写真B)。二つのプランターに何気なくキクとネギが植えられています。上品な白いキクと青いネギのコントラストが面白い。
この写真の3週間後に再びキクを見たら、少し紫がかった色がはなびらにかかっていました。真っ白なキクの花と思い込んでいたのですが、時間が経つにつれ色がつくのもなかなかおつなものです。


キクとネギ

写真B キクとネギ
(東京都杉並区上井草2丁目:2018年12月5日)







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