三陸書房
今月号リレー・エッセイ2
 
(7) 内包と外延  その22

有機農産物は体によいか? 
佐川 峻 
「有機食品」、「健康食品」という言葉がスーパー、お店、そして家の中にあふれています。我が家にも「有機しょうゆ」という結構目立つ包装のしょうゆのボトルが冷蔵庫に入っていました。
ラベルには「化学肥料、農薬を使わず、原料は有機大豆、有機小麦……」などとあります。
一般に、有機野菜に代表される有機食品はそうでないものに比べて割高です。ものにもよりますが、有機野菜や果物はそうでないものに比べて5割以上は高いようです。
健康に良いのであれば十分価値があるのですが、本当にそうなのだろうかという疑問もわきます。
農林水産省の定義では、有機農産物とは「有機農産物の日本農林規格」の基準に適合している農産物ということであり、その基準は、
1. 周辺から使用禁止資材が飛来し又は流入しないように必要な措置を講じている。
2. は種〔播種〕又は植付け前2年以上化学肥料や化学合成農薬を使用しない。
3. 組換えDNA技術の利用や放射線照射を行わない。
となっています。要するに、栽培する農産物の種をまいたり、苗を植えたりする2年前から化学肥料や化学農薬を使用せず、周囲からもそれらが来ないようにして栽培しているということです。
では、化学肥料や農薬を用いている通常の農産物は体によくないのかという疑問が生じます。端的には、化学肥料や農薬が農産物に残留しているのではという懸念です。
日本の農産物の残留農薬に対しては、国はポジティブリスト制度とADIという二つの原則で規制しています。
ポジティブリスト制度とは、「農薬には○○だけしか使用してはいけません」という利用してよい農薬を列挙し、明示する積極的な決め方です。逆のネガティブリストとは「○○はいけません。それ以外は何でもいいですよ」と使用してはダメなものを列挙するやや緩い決め方です。
ネガティブリスト方式では「○○は使われていません。しかし、それ以外の何が使われているかはわかりません」ということですから不安は残ります。
余談ですが、法律で「○○は禁止します。もし、○○をしたら懲役2年、もしくは罰金1000万円を課します」というのがありますが、これはネガティブリストです。とりあえず○○はしてはいけないことは決められていますが、他のことはそれを禁止する別のネガティブリストがない限り、とりあえずはよいと考えられるからです。
平成15年の食品衛生法改正で残留農薬に対して抜け道を封じるポジティブリスト制度が制定されたのは大きな進歩です。このリストには約800種類の農薬が登録されています。
2番目のADIはこれまで何回も登場したキーワードで、「一日摂取許容量」です。体重1キログラム当たりで示され、この数値に本人の体重を掛ければ許容量が算出できます。
動物で当該食品を用いていくつかの実験をし、キログラム当たりの影響がでない量を求め、それを100分の1にした量でした。
残留農薬も基本的にはこの数値をもとに規制されています。食品添加物と同じ考え方です。
企業が生産した農産物や加工食品に「有機」や「オーガニック」と表示して出荷、販売するには、この規制に基づき、「有機JAS認証事業者」に登録する必要があります。
5割以上のお金を出して有機農産物を購入するかどうかは、この考え方を認めるかどうかが判断の主な分かれ目になると思うのですが、人間は感情の動物です。そして、感情で判断するかどうかは自由です。
有機農産物はおいしいという人もいるようです。味は主観的にならざるをえず、好みもありますから、これも自由というとちょっと変な言い方ですが、議論は野暮でしょう。
プラセボ効果という「信じればなんらかの効果が実際に出る」場合もあるのでなおさらです。そいう私も、実は「有機やさい」というとプラスの感情がわき起こります。
隣接している農園の野菜は有機野菜ではないですが、省農薬であるようなので、せっせと購入しています。地域経済の振興、地産地消などと大げさなことは考えていませんが、時折、珍しい野菜もあり、価格もスーパー並みなのでありがたいです。
その栽培状況が実際に目で確かめられるということは、信頼関係構築に大きなプラスをもたらしていることも理解できました。
ただし、堆肥を使用したときは「田舎のにおい」があたりに充満し、早急に取りやめになったようです。「有機肥料」を実際に使用するとなるとなかなか難しいものです。
「有機農産物」というと「露地栽培」や「手作り」とか「地産地消」という言葉が連想されます。ということは、暗黙の裡に「国産」とつい思ってしまいます。
実はそうではないのです。正確には、そうではないだろうですが。
スーパーに並んでいるバナナの「有機」はさすがに輸入だとわかりますが、さきほどの「有機しょうゆ」の原料である「有機大豆」や「有機小麦」は、国産の大豆、小麦か輸入物かは定かではありません。場合によっては海外産の大豆、小麦を用いて、海外の現地で生産したものの輸入品なのかもしれないのです。
財務省の輸入品の統計はありますから、そこから有機農産物がわかれば問題ないのですが、残念ながら私が見た限りでは、一般の物と「有機」に分けてはいないようです。つまり、輸入された有機農産物の量や金額はわかりません。
そこで間接的な推測にならざるをえませんが、日本で消費している小麦の86%は米国とカナダから輸入したものであり、大豆の91%はやはり両国から輸入したものなのです。この数字はカロリーで換算したものですが、金額、もしくは数量としてもそうは違わないでしょう。
また、農水省の資料によると、米国の有機農産物(2016年)の売上高は4.7兆円であり、日本の1,300億円よりも一桁以上多いことはわかっています。
この数字から判断して、おそらく国内で消費している「有機食品」に含まれている「有機小麦」と「有機大豆」の大半は、海外からの輸入だろうと思われます。
我々は、健康に特にうるさい国民であり、だから「有機」だと思ってはいるのですが、それは錯覚であり、自国で賄っているのではない可能性大です。
わたしは「有機応援」、「農業応援」ですが、それが「日本の農業、有機応援」になるようであればうれしいのですが。



◇   ◆   ◇



今月は冬の紅葉です。(写真A)
真冬ですが、イチゴが実り、一部の葉は紅葉しています。私にとっては、このようなことは初めてですが、普通に起こることなのでしょうか。
上のとんがった緑色の葉っぱはスズランスイセンです。


イチゴの紅葉

写真A イチゴの紅葉
(東京都杉並区下井草4丁目:2019年1月28日)


あざやかな赤色はアントシアンという色素です。いちご本体も赤いですが、これはアントシアンの中のアントシアニンという色素です。
春、夏では、このように地面に接しているイチゴはアリにすぐ食べられてしまうのですが、寒いのでアリはいません。おかげでイチゴは無事です。


ナンテンの紅葉

写真B ナンテンの紅葉
(東京都杉並区下井草4丁目:2019年1月28日)


次は紅葉したナンテンです。(写真B)
正月ごろは、赤い実と青々とした葉っぱだったように思います。大変身です。
それにしても、鮮やかですが、今年の東京の冬は昼と夜の寒暖の差が大きいのでしょうか。





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