三陸書房
今月号リレー・エッセイ2
 
(7) 内包と外延  その23

遺伝子組換え作物とは何か 
佐川 峻 
DNAは遺伝子の集合体であり、生物の設計図です。それが巨大な2重らせん状のひものような物質であることがわかったのです。
遺伝という神秘な現象を司っていたのはひも状の化学物質だったので、原理的には部分的に一部を取ったり、加えたりして変更する操作ができます。ということは、ある特定の遺伝子に相当する部分を操作してその生物の性質を部分的に変えられるということになります。これが遺伝子組換えです。
白い花しか咲かない植物に、青い花を咲かせる植物から採取した青い色素を作る遺伝子を入れます。すると、白い花の植物は青い色素を作ることができるようになり、青い花を咲かせるというわけです。
ヒトを含む動物、そして植物、細菌、ウイルスは遺伝子を持っているので、全てこの遺伝子組換えの対象になり得ます。
遺伝子組換え技術を用いて、青い色だけではなく、害虫に強い、除草剤に強い、大きな実をつけるなどという性質を、作物などに付与できればと誰でも考えるでしょう。実現すれば、夢のような品種改良技術です。
このようなことを実際に行っているのが今回のテーマである遺伝子組換え作物です。
1975年にアメリカのカリフォルニア州アシロマで開催された「アシロマ会議」では、早くもこの遺伝子組換え技術を生物に応用した場合の危険性が科学者たちによって議論されました。人間や環境に対して危険な新種の生物が出現する可能性があるからです。
わずか20数年で、遺伝子に関する科学上の知識が、実際の生物に応用できる技術のレベルにまで達したのです。
現在では、さらに進み、ダイズ、ワタ、トウモロコシ、ナタネなどが主な遺伝子組換え作物として大規模に世界各国で栽培されています。牧草や食用に用いられるアルファルファや果物のパパイヤも遺伝子組換え品種が商品化されています。
主な産地は栽培面積の多い順に、アメリカ、ブラジル、アルゼンチン、インド、カナダなどです。日本では栽培面積は作物ではゼロで、遺伝子組換え植物としては商業的にはバラ以外に栽培されていません。
ちょっと古い数字ですが、2012年時点で全世界のダイズとワタはなんと、ともに耕地面積の81%が遺伝子組換えの品種となっています。トウモロコシは35%、ナタネは30%となっています(「遺伝子組換え作物をめぐる世界の状況について」三石誠司)。
世界的に見て、ダイズとワタはそのほとんどがすでに、遺伝子組換え品種になっているのです。トウモロコシとナタネも年々、割合は増加しており、2019年現在では、ともに量的には半数を優に超えているのではと推定されます。
ダイズは製油用、食品用、飼料用などに用いられ、ワタは製油用、トウモロコシは飼料用、スターチ用、ナタネは製油用です。スターチはでんぷんのことで、食品やダンボールの糊などに用いられます。
ダイズやワタでは、遺伝子組換えによって特定の除草剤で枯れないという性質を持った品種が実用化しています。
アメリカの旧モンサント社が開発した「ラウンドアップレディー」という遺伝子組換えダイズはやはり同社の「ラウンドアップ」という除草剤に耐性を持っています。組込まれた遺伝子の働きでラウンドアップを分解するからです。しかし、他の草は枯れてしまいます。
この二つを同時に用いれば栽培農家は除草の手間が省けます。もちろん、遺伝子組換えダイズの種子と除草剤をセットで販売するモンサント社の売上も伸びます。
遺伝子組換えでは有名だったモンサント社は昨年、2018年にドイツのバイエル社に買収されています。
害虫に強い遺伝子組換えトウモロコシも作られています。Btタンパク質を作る遺伝子が組み込まれたトウモロコシです。このたんぱく質はBt(バチルス・チューリンゲンシス)と呼ばれる微生物に含まれる殺虫成分で、ある特定の害虫はこれを食べると死にます。
人がBtタンパク質を食べても酸性の胃で分解され、また腸でも吸収されません。このため人には無害です。害虫の消化管はアルカリ性でかつ消化管で吸収されるので、虫にとっては有害なのです。
作物の収量が増加し、殺虫剤を使用する必要がなくなるのは栽培する農家にとっては費用と手間が省けて大きなメリットになります。
このように、遺伝子組換え作物を栽培する農家にとっては、なんらかの好ましい性質があるので、アメリカやカナダ、南米などで急速に普及しているのです。
問題は、人に対する安全性と環境への影響です。
日本では、食品は、これまで何回も述べたように基本的には食品衛生法に従い、検査されています。その他に、遺伝子組換え作物については、生成されているたんぱく質が有害かどうかやアレルギーを起こさないかなどがデータを元に評価され、これでも確認できない場合は、動物実験などで評価されます。
日本では、平成31年1月21日現在、遺伝子組換えの320品種について安全性審査を受け、認可されています。
内訳は、トウモロコシが206品種、ワタ47品種、ダイズ28品種などです。海外の遺伝子組換えトウモロコシやダイズなどは日本に大量に輸入され、家畜の飼料などに多く利用されていると思われます。
環境への影響も懸念されます。作物が害虫や除草剤に強いのはそれでいいのですが、そのような遺伝子組換え作物が環境に増えすぎて、従来の植物を圧迫、駆逐するかもしれません。
また、遺伝子組換え作物に組み込まれた遺伝子が他の植物に偶然に移動し、望ましくない植物が繁茂することになるかもしれません。
わが国では、遺伝子組換え作物の環境への影響については、2004年に制定された「生物の多様性に関する法律(カルタヘナ法)」に基づき規制されています。
この法律の名称であるカルタヘナ法は、1992年にコロンビアのカルタヘナで開催された生物多様性条約特別締結国会議にちなんだものです。
カルタヘナ法の基本的な考え方は、1. 近場の野生種との交雑、2.有害物質を産出しないか、3. 雑草化して他の植物を駆逐しないか をポイントにして遺伝子組換え作物をコントロールしようというものです。
実際の運用に際しては、環境中への拡散を防止しないで行う第一種使用等と、環境中への拡散を防止しつつ行う第二種使用等とに分れています。
結論を言うと、日本では現在、トウモロコシやダイズなど多くの植物や作物をこのカルタヘナ法で評価し、139品種が国内で栽培可能と認定されています。しかし、先に述べたように、実際に国内で商業栽培しているのはバラだけです。
重要なこととして、遺伝子組換え食品の表示という問題があります。
日本では、「原材料の重量に占める割合が上位3位以内で、かつ原材料に占める割合が5%以上」の場合のみ遺伝子組換え材料が入っていることを表示しなければならないことになっています。
遺伝子組換え材料が4番目に多い原料だったり、意図せぬ混入でも5%未満であれば表示しなくてもよいという抜け穴はあります。
アメリカやカナダで生産されている遺伝子組換えダイズやワタから採った食用油を使用していても、5%以内であれば表示する義務はないのです。
問題点は煮詰まってきました。整理すると、アメリカやカナダなどの農業大国では遺伝子組換え作物がコムギとコメを除いて大半を占めています。それらは食用油や家畜の飼料用として日本に恐らく、大量に流入してきています。
日本では遺伝子組換え食品は表示されている限りではほとんどなく、消費者には受け入れられていません。しかし、原材料の一部や遺伝子組換え飼料で飼育されている家畜から間接的には摂取している可能性は大です。
これら全てを完全に拒否するとなると、現在、流通している食品で恐らく食べられるものはあまりないのではと思います。
さらに、遺伝子組換え作物が世界各国で大きく増加している今日、これを排除するということだけで日本の農業はこの先成り立つのかという疑問もあります。
考え、悩む価値はあります。



◇   ◆   ◇



今月は光のいたずらです。(写真A)


虹色の標識

写真A 虹色の標識
(東京都杉並区上井草1丁目:2018年2月15日)


交通標識が虹色に光っています。標識の表面にある細い溝に光が反射して7色の虹色に見えます。光の色、すなわち波長によって反射角度が異なるので、太陽からの白色光が虹色に分解します。
CDの表面にある細い溝によって反射光が虹色に見えるのと同じ理屈です。
右側の30キロ速度制限の標識もかすかに虹色に光っています。


赤い消火器箱の赤い影

写真B 赤い消火器箱の赤い影
(東京都杉並区上井草1丁目:2018年2月15日)


次は赤い消火器箱の赤い影です(写真B)。
以前の物は消火器が頑丈な鉄の箱に入っていたのですが、中に何が入っているかはわかりにくく、いざという時にいかにも使いづらい様子でした。
改良された今回の赤い箱は中が見えるので使いやすいと思います。
本体よりも影の方が存在感を主張しているような感じです。





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