三陸書房
今月号リレー・エッセイ2
 
(7) 内包と外延  その26

AI は日本の農業を救うか?
佐川 峻 
「農業生産性AIで向上」という、ある新聞の見出しには少し驚きました。5月12日に新潟市で開催されたG20農相会合の閣僚宣言のことです。
農業という最も古い産業と最先端のAIが結びつくのですから刺激的です。
G20農相会合は、20カ国の農相が農業の抱える課題について検討する会合であり、日米欧の先進7カ国と中国、韓国、インドなどが主なメンバーです。
農産物貿易額の約80%を占めるので、補助金や関税、遺伝子組換え作物など重要な課題は出揃うだろうとも思ったのですが、その宣言が「AI」ですから、刺激はあるのですが、肩透かし感があり、「はてな?」とも思った次第です。
利害が対立する話題は避けるしかなかったと推察します。
記事をよく読むと、さすがに宣言の内容はAIだけではなく、「増加する世界の人口を養うための農業の生産性向上」、「AIやロボットなどの先端技術の活用」、「食品ロスの削減」などが並んでいました。
話の本筋とは関係ないのですが、新聞の見出し作成技術はハイレベルだと感心しました。
ロボットで作物を収穫したり、ドローンで空から生育状況を観察したり、薬品を散布するというのはわかりやすいですが、AIとなるとイメージがわきません。
しかし、調べてみると、AIはすでに結構、使われています。具体的には、土壌データや雨量、温度などの気象データから最適な作物を探したり、種まきの時期の予測、収穫量の予測、病気の予測と予防など、広範囲にわたっています。
考えてみれば、AIは人工知能であり、ロボットのように動いて何かをするというよりは、「膨大なデータを瞬時に処理して、何かを判断する」技術です。
AIの医学での応用では、手術ではなく、診断です。株の売り買いやゲームはまさに判断が仕事の本質ですから、AIが活躍するのは当たり前です。
しかし、古い産業である農業も生き物である作物を土という天然の環境の中で育てているのですから、膨大なデータ処理が伴っているはずです。生き物と自然環境はデータの塊です。
そのため、農業でAIが活躍してもおかしくは全くないということに、はたと思い至りました。そう考えると、作物をうまく作るということは、少なくとも囲碁や将棋よりは難しそうなので、余計にAIが活躍する可能性があるということになります。
植物工場という最先端農業分野があります。ビルのような建物の中で、生育植物専用に開発されたLED照明と人工栄養液で育てるのです。光と温度や湿度、水と栄養供給、収穫などすべてがコンピュータで制御されています。
製品はレタスが主なもので、大規模な工場だと一日1万株を生産できます。都市近郊に立地できるというメリットを生かして、スーパーなどに出荷しています。割高ですが、「新鮮で安全、おいしい」が売り物です。供給も安定しています。
日本でも、当初は、画期的なビジネスモデルともてはやされたのですが、現実は厳しく、倒産、撤退が相次ぎ、現在は数百社が残っているようです。
理由は採算が取れないという単純なことです。つまり、理想的な収穫が得られないということです。病気や生育不良、栄養成分の不適、コントロール不良などが考えられます。
タラレバの話ですが、もし、例えばレタスの育成に関して完全なデータがあれば、AIでそれを分析して、ほぼ理想的なレタス栽培が可能になるでしょう。栄養、光、温度・湿度などの環境、病気などのデータと収穫量のデータがあれば、AIでどのような組み合わせをどのタイミングで行うのが最適か、判断できます。
レタスにも種類があり、それぞれに適した細かい制御が必要でしょう。それが実現すれば、生産性は向上するはずです。
問題は、「完全なデータの獲得」と「AIによる分析」です。それには費用と時間、そして高度な技術が必要です。程度問題ではありますが、少なくとも、日本では植物工場のようにコンピュータ化された環境でもまだ実現していません。
例えば、日本のコメにこのような大規模先進技術を適用すれば確かに生産性は向上するでしょう。しかし、誰が行うのでしょうか。国、農協、試験所、大学、民間企業・研究所、農家でしょうか。
アメリカやカナダには巨大企業があり、大規模農家があります。AI活用ではそちらの方が分がよさそうでし、実際に行っています。
遺伝子組換え技術の好き嫌いはともかく、欧州と日本はアメリカなどにだいぶ差をつけられました。モチベーションを高めるような制度を作らないとAI活用でもさらに差をつけられる危険があります。
G20の議長国を務めた日本としても、宣言を本気で実現してほしいものです。



◇   ◆   ◇



今月の花は姫緋扇(ひめひおうぎ)です。この姫緋扇は私の好きな花です。何回かすでに登場していますが、今回は特集です。


姫緋扇(ひめひおうぎ)

写真A 姫緋扇
(東京都杉並区井草4丁目 2019年5月18日)


まず自宅のものです(写真A)。
直径1〜2cmくらいの小さな花ですが、あでやかな朱色が映えます。写真ではやや白色ですが光の加減です。
種が飛んできたらしく、最初は一つだったのですが、翌年は少し増えていました。その時から毎年咲くようになりました。増えるのが楽しみで、熱烈なファンになりました。
咲く場所は定まってはおらず、ぽつぽつとあちこちに咲きます。
栽培しているわけでは全くないのですが、毎年5月になると、咲いているので気がつきます。写真のものは、ハート型の葉と白い花のドクダミに囲まれ、埋もれそうです。
元は観賞用だったらしいですが、我が家のようにやや野生化しています。路傍にも咲いています。この花は好きな人がいるらしく、プランターや花壇で栽培されているのを時折見かけます。
次の二つはそのような本格的な愛好家の姫緋扇の花壇です。写真Cはとある小学校の花壇です。


姫緋扇(ひめひおうぎ)の花壇(小学校)

写真B 姫緋扇の花壇
(東京都杉並区下井草3丁目 2019年5月16日)




姫緋扇(ひめひおうぎ)の花壇(小学校)

写真C 姫緋扇の花壇(小学校)
(東京都杉並区下井草4丁目 2019年5月17日)


写真BとCの場所はそれほど離れていません。想像を逞しくすると、例えば、Bの主のお孫さんがCの学校に通っているとか、Cの学校にはBの人がかつて通っていたというような関係があるのかもしれません。





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