三陸書房
今月号リレー・エッセイ2
 
(7) 内包と外延  その30

ウナギの不思議な一生
佐川 峻 
近年、ウナギはめっきり高くなりました。私はおそらく10年以上、まったく食べていません。肝吸い付きのウナ重は大好きだったのですが、縁がなくなりました。
ニホンウナギは2014年に国際自然保護連合によって絶滅危惧種に指定されました。高くなったなどという能天気なことではなく、減少して生物学的な危機に瀕しているのです。
日本では食用のウナギは川で親ウナギを獲ったり、近海で捕獲した稚魚のシラスウナギを養殖して供給しています。その親ウナギとシラスウナギの双方が大幅に減少しています。
1960年ころはニホンウナギの養殖用シラスウナギなどは毎年、200トンくらいの水揚げがあったのですが、その頃から急速に減り始め、1980年は50トン、そして最近は10トンくらいにと激減しているのです。確かに、絶滅の危機です。
ウナギ減少の原因は、過剰な漁獲や海洋環境の悪化などが言われていますが、今一つはっきりしていません。
というのは、ウナギの生態というか一生が、複雑というか神秘的で、詳しくはまだよくわかっていないからです。
川の親ウナギは産卵のために下って海に向かいます。そしてなんと本州から南に2000キロ以上離れたマリアナ諸島付近で産卵します。産まれたばかりのウナギの稚魚は、柳のはっぱのような形をしていて、「レプトセファルス」といいます。
このレプトセファルスは、成長しながらフィリッピンの方へ向かい、そこから今度は黒潮に乗って北上します。その間、シラスウナギへと変態、成長して日本近海に達します。産まれてから1年にも満たない出来事です。
そして、日本の河川に到着したシラスウナギは10年くらいかけて成長し、大きな親ウナギになるのです。なんと、幼魚のときの5000キロにも達する周回の長旅と、日本に到着してからの永い生活が、ウナギの一生なのです。
このようなニホンウナギの驚くべき生態も、大まかですが、2000年以降のごく最近明らかになったことです。(「日経サイエンス」2019年8月号)
絶滅を避けるためにも、経済的な理由からもウナギの養殖が、研究者や企業の研究・開発目標となっていることは当然なのですが、まだ完成していません。
「養殖ウナギ」はあるじゃないかという声があがりそうですが、その養殖は完全養殖ではなく、近海で捕獲した、もしくは輸入したシラスウナギからの養殖です。親ウナギを産卵させ、孵化したレプトセファルスからのものではないのです。
実験的には完全養殖は実現しています。しかし、そのコストが高く、まだ実用化していません。天然のシラスウナギが1匹あたり数百円であるのに対して人工飼育のシラスウナギは5000円から6000円もするそうです。
高コストの理由は、レプトセファルスがシラスウナギにまで成長する歩留まりが低く、大型水槽での飼育が難しいためです。レプトセファルスは非常に繊細な生き物で、最適のエサや生育環境の面でわからないこともまだまだ多いようです。
商業化はともかく、なんとかニホンウナギの絶滅は免れそうですが、不思議なのはその生態です。特に、なぜ日本からはるばるアリアナ海域まで下って産卵し、再び長旅をすべく北上するのか、ということです。
これからは私の思い付き、想像です。一つのヒントはカメです。
アオウミガメという大型の海に棲息するカメがいます。このアオウミガメには2種類あり、太平洋にいる少し黒っぽいクロウミガメと、大西洋にいるアオウミガメがいます。
次に注目する点は、カメの産卵地は決まっているということです。本州だったり、小笠原諸島だったりします。いろいろあるのですが、遠くに回遊していても産卵時期になるとわざわざ決まった場所に戻ってきます。
カメは生活する場所と産卵する場所が異なり、何千キロも随分離れた場所になる場合も稀ではありません。スティーブン・ジェイ・グールドのエッセイにそのようなカメの例がありました。
その理由は大陸の移動です。勿論、島も付随して、動いたり、生成、消滅しています。
2億5千万年前は地球上に「パンゲア」という一つの超大陸がありました。このパンゲアは分裂を開始し、現在の5大陸へと変化してきました。途中、分裂した大陸の間には太平洋と大西洋も出来ました。
この大陸の分裂途上に現れた生物は、生活場所と産卵場所がもとは同じだったのですが、その中のあるものは、大陸が分裂、移動するに従い、また裂き状態になったものもいました。
始めはその二つの場所は小さな裂け目の海の両側でしたが、それは段々離れてゆきました。離れてゆく島だったかもしれません。
しかし生物は、大陸や島の移動がゆっくりなので、その環境変化に順応してというか、進化・適応してその距離を移動する能力を獲得してゆきました。そして、ついには生活する場所から数千キロも離れた場所を産卵地とすることになりました。
アオウミガメが太平洋と大西洋の2種類に分裂したのもこれで説明できます。渡り鳥もそのような仲間です。
あえてこれにあてはめると、ウナギはもともと、例えばパンゲア大陸時代に生活、成長する場所と産卵場所は同じ、もしくは非常に近かったのかもしれません。それが何億年も経つうちにとんでもなく離れてしまったのでした。日本とマリアナ諸島くらいに。
とにかく一つだけ言えそうなのは、ウナギももともとは今ほど生活場所から離れた場所で産卵していたのではないだろうということです。始めは生活する近場でのんびり産卵、成長していたのかもしれません。
すべては地質学的な何億年という永い変化のなかで、かけ離れたとてつもない産卵・生活空間が生じたのではないでしょうか。カメは爬虫類であり、ウナギは魚ですからともに古い生物であり、パンゲア時代からいたのでしょうから。



◇   ◆   ◇



今月はネギです。青々とした大きなネギ坊主です(写真A)。


大きなネギ坊主

写真A 大きなネギ坊主
(東京都練馬区南田中4丁目 2019年5月4日)



練馬区のこのあたりではまだ兼業農家も多く、野菜が栽培されています。これを作っているのは、おそらくは古くからの地主さんで、農業はプロです。
ネギも立派ですが、その花であるネギ坊主も大きくて堂々としています。
次は同じ畑ですが、小さなネギ坊主がありました(写真B)。


小さなネギ坊主

写真B 小さなネギ坊主
(東京都練馬区南田中4丁目 2019年5月4日)



上のネギとは違う品種のようです。
ネギがちょっと不思議なのは葉っぱがないことですが、青々とした茎のようなものが実は葉っぱなのです。青い色は葉緑素ですから茎は葉っぱなのですね。
私はネギが大好きで、青々と大盛りにかけたうどんが好物です。それにすりしょうがと唐辛子をたっぷりとかけると青、黄色、赤の3色になり、ちょっとした芸術的などんぶりが出来上がります。店にとってはありがたくない客かもしれません。





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