三陸書房
今月号リレー・エッセイ2
 
(7) 内包と外延  その33

放射能汚染水の問題
佐川 峻 
2011年3月11日に起こった福島第一原子力発電所のメルトダウン事故以来、はや9年が経とうとしています。同発電所の1号機から4号機まで全てが廃炉と決定しました。廃炉とは、中心部の原子炉やそれを囲んでいる格納容器を含め、原子力発電施設を解体、撤去することです。
やや北にある5号機と6号機はメルトダウンを免れ、「廃止」とはなりましたが解体はされず、今後、研究開発に利用することになっています。
しかしながら1号機から4号機までは、本当にその廃炉がいつ実現するのかと危ぶまれる事態に陥っていると思います。というのは、1号機から3号機までは熔融した原子炉や熔け落ちた核燃料棒があり、それらの解体、撤去という大変な作業があるのですが、それらの本格的な作業に入る前に、今現在、全体の敷地内で増え続けている放射能汚染水の除去と処理という難題もあるからです。
建屋内に貯まる汚染水は、津波による流入海水、その後の雨水による流入水、熔融した原子炉や燃料棒を冷却するための、当初の海水を含む注入水、そして今なお続く陸側からの地下流入水と多様な経路から生じています。
いずれの流入水もそのままにしておくと、中の放射性物質に触れて、多かれ少なかれ放射能汚染水となり、建屋内に貯まります。放置すると、海側に流出してしまいます。
そのため、この放射能汚染水は勿論、日々排水作業で取り除かれていますが、地下流入水は24時間、毎日発生するものなので、大変なのです。
雨水・地下水による汚染水の発生量は2016年くらいまでは毎日約500トンにも達していたのですが、遮水壁の建設などが行われたため、それ以降は100トン/日程度に減少しています。とは言っても、発生し、処理しなければならない汚染水は、単純計算で毎日100トンですから、1年では37,000トンにもなります。
こうして発生し、処理された汚染水は2019年12月現在、累積で約120万トンにも上り、約1000基の陸上のタンクに貯蔵されています。これからも増えるでしょう。
詳しくは、東京電力の「処理水ポータルサイト」
(http://www.tepco.co.jp/decommission/progress/watertreatment/)
を見てください。 
問題は、こうしてタンクに貯蔵されている汚染水には、まだ取り除けない放射性物質のトリチウムが含まれているということです。いわゆるトリチウム水です。
トリチウムは水素の放射性同位体で、三重水素ともいいます。
建屋内に貯まった汚染水は、放射性物質であるストロンチウムやセシウム、プルトニウムなどは、多核種除去設備(ALPS)で除去しています。正確には62種類の放射性物質を除去するといわれています。
トリチウムが簡単には除去できないのは、トリチウムは水素と化学的性質が同じなので、通常の水と区別できない形態で含まれているためです。
通常の水分子はH2Oですが、トリチウム水はTHOとなっています。普通の水分子1個は2個の水素原子と1個の酸素原子が結合したものですが、トリチウム水分子は水素原子1個がトリチウム原子のTに置き換わっています。
トリチウム水分子と水分子は双方、化学的性質は全く同じなので分離がとても難しいのです。言ってみれば、水から水を分離する難しさです。
トリチウム原子は水素原子よりも3倍重いので、トリチウム水は通常の水よりも少し重くなっています。この物理的差異を利用して例えば遠心分離などで分離はできますが、使用するエネルギーが莫大で、装置の開発も含め、実現には天文学的費用が必要となるでしょう。
問題は、このトリチウムが放射線を出すことです。弱いエネルギーを持った電子を放出します。正確には反ニュートリノという全く影響のない粒子も同時に放出しますが、こちらは人体に全く影響ありません。半減期は12.3年です。
生物に影響があるのは、放出される低エネルギーの電子線ですが、これも紙一枚でストップできるくらいのものです。しかし、生物に影響を与えることのできる電子線なので弱くとも量次第です。
トリチウムの半減期は約12年です。2011年の事故当時に生じたトリチウム水のトリチウム濃度は現在、約半分近くに減少しているでしょう。2050年には約10分の1くらいになっているはずです。
このため、タンクに例えば100年近く保存しておけば、トリチウム水はほとんど消滅して無害な水になっているとも言えます。ただ、それまでは、タンクが増え続けてその設置と管理が途方もない作業としてのしかかってはきます。敷地の確保とタンクの寿命という問題も生じます。
経済産業省はトリチウム水を「薄めて海に流す」、「深い地層に注入する」、「水蒸気にして大気中に出す」などを検討し、海洋放出であれば費用と期間を最小にできるとの考えです。政府は、この中で海洋放出案を最も有力視しているようです。
実際に、日本の原子力発電施設では、発生したトリチウム水を法定基準に従って、希釈して海に放出しています。
しかし、事故によって生じたトリチウム水を海洋放出すれば、風評被害は確実に起こるでしょう。そこが難しいところです。議論して考えるよりほかないように思えます。



◇   ◆   ◇



ある民家の2階くらいの高さの壁に草が生えていました(写真A)。
段差のわずかな窪みに根を張っているようです。そこには少量ながらも土があり、水が貯まるからでしょう。たくましいものです。思わず応援したくなります。


たくましい草

写真A たくましい草
(東京都杉並区井草4丁目 2019年12月5日)



葉の形から見ると、たんぽぽの一種のようです。空中を浮遊した綿毛がここに落ちて定着したのでしょうか。
次はいちごの紅葉です(写真B)。連日、日中と夜中の寒暖の差が大きく、きれいな色になりました。


いちごの紅葉

写真B いちごの紅葉
(東京都杉並区井草3丁目 2019年12月28日)



いちごの紅葉は以前、このオリーヴで紹介しましたが、その時よりは増えて、より華やかになりました。





Copyright © 2004-2020 Sanriku Publishing Limited All rights reserved.
ホーム 三陸書房の本 オリーヴ ご購入について 小社について