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《新版 万葉秀歌365》1月

1月1日()熟田津に船乗りせむと月待てば 潮もかなひぬ今は漕ぎ出でな ──額田王〔巻一・8〕
       にきたつに ふなのりせむと つきまてば しほもかなひぬ いまはこぎいでな  ぬかたのおおきみ

  2日(
)新しき年の始めの初春の 今日降る雪のいやしけ吉事☆ ──大伴家持〔巻二十・4516〕
       あらたしき としのはじめの はつはるの けふふるゆきの いやしけよごと  おおとものやかもち

  3日(火)新しき年の始めに思ふどち い群れてをれば嬉しくもあるか☆ ──道祖王〔巻十九・4284〕
       あらたしき としのはじめに おもふどち いむれてをれば うれしくもあるか  ふなどのおおきみ

  4日(水)よき人のよしとよく見てよしと言ひし 吉野よく見よよき人よく見 ──天武天皇〔巻一・27〕
       よきひとの よしとよくみて よしといひし よしのよくみよ よきひとよくみ てんむてんのう

  5日(木)田子の浦ゆうち出でて見れば真白にそ 富士の高嶺に雪は降りける ──山部赤人〔巻三・318〕
       たごのうらゆ うちいでてみれば ましろにそ ふじのたかねに ゆきはふりける  やまべのあかひと

  6日(金)月夜好し河音清けしいざここに 行くも行かぬも遊びてゆかむ ──大伴四綱〔巻四・571〕
       つくよよし かはとさやけし いざここに ゆくもゆかぬも あそびてゆかむ  おおとものよつな

  7日(土)香具山と耳梨山と会ひし時 立ちて見に来し印南国原 ──天智天皇〔巻一・14〕
       かぐやまと みみなしやまと あひしとき たちてみにこし いなみくにはら  てんちてんのう

  8日(
)乎久佐壮丁と乎具佐助丁と潮舟の 並べて見れば乎具佐勝ちめり☆ ──東歌〔巻十四・3450〕
       をくさをと をぐさずけをと しほふねの ならべてみれば をぐさかちめり  あずまうた

  9日(
)大君の命畏み出で来れば 我の取りつきて言ひし子なはも☆ ──防人 物部龍〔巻二十・4358〕
       おほきみの みことかしこみ いでくれば わのとりつきて いひしこなはも  さきもり もののべのたつ

 10日(火)矢釣山木立も見えず降り乱る 雪にうぐつく朝楽しも☆ ──柿本人麻呂〔巻三・262〕
       やつりやま こだちもみえず ふりみだる ゆきにうぐつく あしたたのしも  かきのもとのひとまろ

 11日(水)みもろつく三輪山見ればこもりくの 泊瀬の檜原念ほゆるかも☆──作者未詳〔巻七・1095〕
       みもろつく みわやまみれば こもりくの はつせのひばら おもほゆるかも  さくしゃみしょう

 12日(木)桜田へ鶴鳴き渡る年魚市潟 潮干にけらし鶴鳴き渡る☆ ──高市黒人〔巻三・271〕
       さくらだへ たづなきわたる あゆちがた しほひにけらし たづなきわたる  たけちのくろひと

 13日(金)いざ子ども早く日本へ大伴の 御津の浜松待ち恋ひぬらむ☆ ──山上憶良〔巻一・63〕
       いざこども はやくやまとへ おほともの みつのはままつ まちこひぬらむ  やまのうえのおくら

 14日(土)一二の目のみにはあらず五六三 四さへありけり双六の采 ──長意吉麻呂〔巻十六・3827〕
       いちにのめ のみにはあらず ごろくさむ しさへありけり すごろくのさえ  ながのおきまろ

 15日(
)稲舂けばかがる我が手を今宵もか 殿の若子が取りて嘆かむ☆ ──東歌〔巻十四・3459〕
       いねつけば かがるあがてを こよひもか とののわくごが とりてなげかむ  あずまうた

 16日(月)君が行き日長くなりぬ山尋ね 迎へか行かむ待ちにか待たむ☆── 磐姫皇后〔巻二・85〕
       きみがゆき けながくなりぬ やまたづね むかへかゆかむ まちにかまたむ  いわのひめのおおきさき

 17日(火)ますらをや片恋せむと嘆けども 醜のますらをなほ恋ひにけり──舎人皇子〔巻一・117〕
       ますらをや かたこひせむと なげけども しこのますらを なほこひにけり  とねりのみこ

 18日(水)巻向の山辺響みて行く水の 水沫のごとし世の人吾は──柿本人麻呂歌集〔巻七・1269〕
       まきむくの やまへとよみて ゆくみづの みなわのごとし よのひとわれは  かきのもとのひとまろのかしゅう

 19日(木)我が心焼くも我なりはしきやし 君に恋ふるも我が心から☆──作者未詳〔巻十三・3271〕
       あがこころ やくもわれなり はしきやし きみにこふるも あがこころから  さくしゃみしょう

 20日(金)吾はもや安見児得たり皆人の 得がてにすとふ安見児得たり☆──藤原鎌足〔巻一・95〕
       われはもや やすみこえたり みなひとの えがてにすとふ やすみこえたり  ふじわらのかまたり

 21日(土)潮満てば水沫に浮ぶ細砂にも 我は生けるか恋ひは死なずて──作者未詳〔巻十一・2734〕
       しほみてば みなわにうかぶ まなごにも われはいけるか こひはしなずて  さくしゃみしょう

 22日(
)防人に立ちし朝明の金門出に 手離れ惜しみ泣きし児らはも☆──東歌〔巻十四・3569〕
       さきもりに たちしあさけの かなとでに たばなれをしみ なきしこらはも  あずまうた

 23日(月)古の人に我あれや楽浪の 古き京を見れば悲しき──高市黒人〔巻一・32〕
       いにしへの ひとにわれあれや ささなみの ふるきみやこを みればかなしき  たけちのくろひと

 24日(火)弥彦おのれ神さび青雲の たなびく日すら小雨そほ降る☆──作者未詳〔巻十六・3883〕
       いやひこ おのれかむさび あをくもの たなびくひすら こさめそほふる  さくしゃみしょう

 25日(水)あしひきの山川の瀬の響るなへに 弓月が嶽に雲立ちわたる☆── 柿本人麻呂歌集〔巻七・1088〕
       あしひきの やまがはのせの なるなへに ゆつきがたけに くもたちわたる  かきのもとのひとまろのかしゅう

 26日(木)風に散る花橘を袖に受けて 君が御跡と偲ひつるかも── 作者未詳〔巻十・1966〕
       かぜにちる はなたちばなを そでにうけて きみがみあとと しのひつるかも  さくしゃみしょう

 27日(金)蜻蛉羽の袖振る妹を玉くしげ 奥に思ふを見たまへ吾が君☆── 湯原王〔巻三・376〕
       あきづはの そでふるいもを たまくしげ おくにおもふを みたまへあがきみ  ゆはらのおおきみ

 28日(土)ぬばたまの黒髪濡れて沫雪の 降るにや来ますここだ恋ふれば☆── 作者未詳〔巻十六・3805〕
       ぬばたまの くろかみぬれて あわゆきの ふるにやきます ここだこふれば  さくしゃみしょう

 29日(
)柵越しに麦食む子馬のはつはつに 相見し子らしあやに愛しも☆── 東歌〔巻十四・3537〕
       くへごしに むぎはむこうまの はつはつに あひみしこらし あやにかなしも  あずまうた

 30日(月)さ夜中に友呼ぶ千鳥もの思ふと わびをる時に鳴きつつもとな☆── 大神女郎〔巻四・618〕
       さよなかに ともよぶちどり ものもふと わびをるときに なきつつもとな  おおみわのいらつめ

 31日(火)天地の底ひのうらに吾がごとく 君に恋ふらむ人はさねあらじ☆── 狭野茅上娘子〔巻十五・3750〕
       あめつちの そこひのうらに あがごとく きみにこふらむ ひとはさねあらじ  さののちがみのおとめ



〈今日の秀歌メモ〉

1月2日
「いやしけ」は、四段動詞【いやしく(弥頻く)】の
「いよいよしきりとなる。ますます
たび重なる」(『新潮国語辞典』)の意の命令形。


1月3日
思ふどち──「相思う人人。親しい者どうし。心の合った者どうし」(岩波古語辞典)。
い群れ──「下二段動詞《イは接頭語》群がっている。集まっている」(同上)。


1月8日
乎久佐壮丁─乎久佐の地の正丁(せいちょう)。
乎具佐助丁─乎具佐の地の助丁。
潮舟の─「並ぶ」にかかる枕詞。
勝ちめり─「勝つめり」の訛り。「めり」は推量の助動詞。
 上記、水島義治『校註万葉集東歌・防人歌』新増補改訂版(笠間書院)から摘記引用。
なお、「正丁」は「大宝令(たいほうりょう)の制で、二十一歳以上六十歳以下の健康

男子の称。……身体に病気・故障のある者、および六十一歳以上の者を次丁とする」
(新潮国語辞典)。「助丁(すけを)」は「防人(さきもり)の身分で、正丁に対する
次丁をいう」(岩波古語辞典)。


1月9日
我の─「の」は格助詞「に」の訛り。
言ひし─別れの悲しさ、苦しさを。
子な─「子ら」〔の訛り〕で「妻」。
はも─詠嘆。
 上記、水島義治『校註万葉集東歌・防人歌』新増補改訂版(笠間書院)から摘記引用。

〔 〕は補足。
なお、「はも」は「連語(係助詞のハとモとの複合したもの)」で、「(文末の体言に
いて)強い愛情や執心などをこめた詠嘆をあらわし、…はどうしたろう、…はどうな
ったろう、などの意に使う」(岩波古語辞典)。


1月10日
うぐつく─「馬がはねるようにして、早く走る」(岩波古語辞典)。
なお、万葉集の古写本として信頼度の高い西本願寺本の原文は馬偏に旁(つくり)「麗」

の文字、万葉集の歌を再編集した最初の本『類聚古集』では馬偏に旁「聚」の文字。


1月11日
みもろつく─「三輪山」にかかる枕詞。「みもろ」は「御室、三諸、御諸」と表記され

る。岩波古語辞典によれば、「ミは接頭語。モロはモリ(杜)と同根、神の降下してく
る所」、「ツクは築く意か。一説、イツク(斎)の約」。
こもりくの─「泊瀬」にかかる枕詞。「こもりく」は「隠国、隠口」と表記される。岩

波古語辞典によれば、「クはイヅクのク、所の意」。


1月12日
けらし─「(連語)回想の助動詞ケリの連体形ケルに推量の助動詞ラシのついたケルラ

シの約。…たらしい」(岩波古語辞典)。


1月13日
いざ子ども─「イザは人を誘いまた自ら行動を起こそうとする時に発する語。原文『去

来』は中国の俗語として用いられた文字」、「子ドモは年下または目下の親しい人々に
対する呼びかけ」(日本古典文学全集『萬葉集一』)。


1月15日
かがる─あかぎれが切れる(新潮国語辞典)。


1月16日
け(日)─「《カ(日)の転》『ひ(日)』が一日をいうのに対して、二日以上にわた

る期間をまとめていう語。……このように複数だけを表わす単語は、日本語には他例が
ない」(岩波古語辞典)。


1月19日
はしきやし─「連語(ヤシは間投助詞)いとしい。愛すべき。『ああ』という嘆息の語

とほとんど同義になる例が多い。亡くなったものを愛惜し、また自己に対して嘆息する
意に多くつかう。はしきよし。はしけやし」(岩波古語辞典)。


1月20日
はもや─「はも」は「連語(係助詞のハとモとの複合したもの)…(文中で用いて)特

に取り立てて提示しようとするそのものに、強い執着や深い感慨を持ちつづけている場
合に使う」、「や」はこの次に投入された間投助詞で、「掛け声が起源と考えられる。
従って相手に呼びかけるに使う。また、拍子を整えるに用いる」(岩波古語辞典)。
安見児─題詞に「采女(うねめ)の安見児」とあり。「采女」は「奈良時代の、後宮の

女官。天皇・皇后の御膳(ゴゼン)・手水(チヨウズ)などに奉仕した。令制(リヨウ
セイ)では郡(コオリ)の小領(スケ)以上の者の美しい娘をあてた」(新潮国語辞
)。伊藤博『萬葉集釈注(一)』(集英社文庫)によれば、「臣下との結婚を禁じら
れていた采女を、藤原鎌足だけが妻となしえた喜びを誇示した歌」、「安見児」は「こ
の采女の呼び名。見た目によいかわいこちゃん、の意らしい」。
すとふ─「すといふ」の約。


1月23日
金門─「門。金属製の門か」(岩波古語辞典)。
はも─「連語(係助詞のハとモとの複合したもの)」で、「(文末の体言について)強

い愛情や執心などをこめた詠嘆をあらわし、…はどうしたろう、…はどうなったろう、
などの意に使う」(岩波古語辞典)。


1月24日
弥彦─越後の弥彦山。
おのれ─「それ自体として、の意」(新日本古典文学大系『萬葉集四』)。


1月25日
あしひきの─「山」にかかる枕詞。「奈良時代にはアシヒキノと清音」(岩波古語辞

典)。
なへ─「助詞(ナは連体助詞、ヘはウヘ(上)のウの脱落形。ウヘには物に直接接触す

る意があるので、ナヘは、『…の上』の意から時間的に同時・連続の意を表わすように
なった。用言の連体形を承ける)…と共に。…と同時に。…につれて」、「この語は長
らくナベと読まれて来たが、万葉仮名の研究から、奈良時代にはナヘと清音であったと
されるようになった。『…なへに』の形でも使われる」(岩波古語辞典)。


1月27日
題詞に「湯原王の宴席の歌」とあり。
蜻蛉羽─「トンボの羽。薄くすき透って美しいものとされた。『─の〔ヨウナ〕袖振る

妹を』〈万376〉」(岩波古語辞典)。
玉くしげ─「奥に思ふ」にかかる枕詞。
奥に思ふ─「『奥に思ふ』の『奥』を今の語になほさば、『秘蔵』といふに当るものな

りとす」[山田孝雄『萬葉集講義』]、「宴の主、湯原王は、美しい舞姫を称えて、宴
の客に『見たまへ吾が君』と挨拶した」(新日本古典文学大系『萬葉集一』)。


1月28日
公務で出かけた夫の帰りを長く待ちわびて臥せっていた女が、帰ってきた夫の自分を見

て悲しんでうたった歌に、枕より頭を挙げて和した歌。
[口語訳]「黒髪もしとどに濡れて、粉雪のふりしきる中をお帰り下さったのですか。

私がこんなにもお慕い申していたので」(伊藤博『萬葉集釈注(八)』〈集英社文庫
〉)。
ぬばたまの─「黒」にかかる枕詞。
ここだ─「副詞(自分の経験内のものについて、程度の甚だしいのにいう)こんなに数

多く。こんなにはなはだしく」(岩波古語辞典)。


1月29日
はつはつに─「【端端に】(副詞)ほんのわずか。いささか。かすか。[用例]「柵越

しに麦食む子馬の(=ココマデ序)、─あひ見し子らし、あやに愛しも」〔万葉一四・
3537・東歌〕[解]一目ぼれの気持ち。『子らし』の『し』は、強めの副助詞。『あ
やに』は、やたらにの意」、「も」は「(終助詞)詠嘆・感動の気持ちを添えるのに用
いられる」(『例解古語辞典第二版』三省堂)。
相見し、愛し─「結句の『愛し』は性愛表現であり、…『相見る』は男女が相まみえる

広い範囲をいう語である〔ガ、ココデノ〕『相見る』は共寝する意を示すと認められ
る」(伊藤博『萬葉集釈注(七)』〈集英社文庫〉)。


1月30日
大伴家持に贈った歌。
友呼ぶ千鳥─「第二句の体言止めは、井上通泰『萬葉集新考』に下に『カナ』を附けて

聞くべしとあり」(新日本古典文学大系『萬葉集一』)。
ものもふ─「ものおもふ」の約。
もとな─「副詞(モトは根本・性根。ナは無しの語幹。性根もなくてどうにもならぬの

意)やたらに…してどうにもならない」(岩波古語辞典)。「『〜つつもとな』…この
表現は、環境の状況と作者の心情とのあいだに生ずるやりきれない違和感を述べる表現
として結句に用いられる。…相手の反応のないことを嘆いている自分なのに、千鳥には
答える友のいるらしいことが『鳴きつつもとな』である」(伊藤博『萬葉集釈注(二)』
〈集英社文庫〉)。


1月31日
底ひ─「至り極まる所。際限。はて」(岩波古語辞典、以下同じ)。
うら─「内側。なか」。
さね─「副詞【実・真】真実。本当に。奈良時代は下に打消の表現を伴い、決して、少

しもの意」。




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